全部、君だった
・・・08.答えてください、どれだけ残酷でもいいから



蓮の隣りにいる奈津子に楠田は見覚えがあった。


キョーコに着いて日本にいなかった彼だが、キョーコとは違い
日本に定期的に戻ってきていた楠田は何度か奈津子の姿を
見かけたことがあった。



(綾織奈津子・・・・・アカトキのアイドル歌手がまさかねぇ)



楠田は、奈津子の歌声も何度か耳にしたこともあり
ライバル事務所のアイドルとはいえ実力は確かだろうと思っていた。
その少女がまさか、自分が受け持つキョーコの元恋人蓮と関係を
持っていたのは少し驚きだった。



「綾織奈津子ちゃんだよね・・・?悪いけどお引取り願えるかな?」



自分が今話したいのは彼女ではない。
彼女の隣りで立ち尽くしている男だ。


それに、彼女がいては突っ込んだ話も出来やしない。
早急にこの場から居なくなって欲しいのだ楠田としては。



しかし―――――。



「私が居ると出来ないお話なんですか。」



どうやら奈津子は帰るつもりはないらしい。
挑むような目つきを楠田に向ける。



「・・・・いや、君が居ても居なくても俺的にはどうでもいいんだけど。
君が、もしくばすっかり黙り込んじゃった蓮・・・いや敦賀君が嫌かなと思ってさ。」




楠田は奈津子と蓮を気遣うような言い方をした。
けれど、実際はその逆だ。
楠田にとっては自分の受け持つキョーコが1番大事なのだ。




「かまいません。私知りたいです。蓮と京子さんの事。」





奈津子の毅然とした態度は楠田にとって好感の持てるものだった。
その反対にどうだろう。すっかり口を噤んでしまった蓮の態度は。



(見た目より随分、しっかりしている子だ)




「・・・・俺、蓮と京子のこと言ったかな?」



「いいえ・・・でも、楠田さんの話し方から、そう感じました。」







それに勘もいいらしい。
彼女はキョーコの最大のライバルなのかもしれない。





「・・・・・・・じゃあ、教えてあげる。君の知らない敦賀蓮を。」