私の目の前には私よりもずっと大人で、いつも余裕しか感じられない人が なんだか照れくさそうに、せっかく綺麗に整われている髪をこれでもかという程 ボサボサに掻き乱しながら立っている。 さっきまでの彼はどこに行ったのだろう? あなた別人ですか?と思わず聞いてしまいそうに成程、それぐらいに別人のようで。 しかも、小さく「うわっ、俺やっちゃったな~、ヤバい、ヤバすぎる」とか「あいつに殺され・・」 なんて物騒なことをブツブツ呟いているし 「・・・あの、えっと・・・く、楠田さん?」 私だって一応業界人な訳だ、だから今更キスぐらいで動揺することも悲しむこともない だけど、仕掛けてきた本人が動揺している様子を見ていたら なんだか頬が赤くなってきたような (・・・それに、楠田さんってキスが上手い・・・) 「あっ!ああ、ご、ごめんなっ。急に・・・・その、キスなんか」 「い、いえ・・・気にしないで下さい」 「でも、迷惑だろう?付き合ってみないか?なんて言ったりキスして」 確かに驚きはしたんだけど――――何でだろう、嫌悪感はなかった いつもの蓮との冷めたキスなんかじゃない・・・温かさを感じられた あ、れ? どうしたんだろ? わたし・・・・・・ 楠田さんにほぼ強引にキスされたのに悲しくなかった、気持ち悪いとも思わなかった どこかで楠田さんの言葉に安心感のようなものを感じている どんなに想っても報われない、あの冷たい感覚から逃れられるような ぜったいにさよならするのは最初から分かってたのに だけど、どこかで期待もしていた、いつかは私を見てくれるんじゃないかって そんな訳ないのに、彼の心にはずっと彼女だけしかいないのに それでも、傍にいることを選んだのも私 いつの間にか、私は彼のことを想えなくなっていた そう・・・・私は彼にただ依存していただけだったの・・・ 想い込んでいただけ、言い聞かせていただけ (蓮を愛しているって・・・・) 「クッ・・・・フフフフ」 「な、なにっ!どうしたんだ?ちょっ・・・奈津子ちゃん?」 そう思ったら、少しだけスッキリ出来たような気がする それを気づかせてくれた、この人に感謝しなくちゃいけないのかもしれない 「楠田さん・・?」 「どうしたの・・・って、ちょっ・・・・まっ・・・んんっ」 私より身長の高い彼に、背伸びして触れるだけのキスをして そっと離れると、真っ赤な顔をした彼の顔 ああ、この人普段はかっこいいけど、かわいいかも・・・ どうしよう私のS気に火が付いてしまったみたい 「ななななにをっ・・・」 「これは私からのお礼のキスです・・・・あと、さっきのお話はお断りします。 その代わり・・・・私から告白したらOKくれますか?」 有能と言われているこの人でもやはり動揺はするらしい 目をパチクリさせて、私の顔を凝視している 「クスクス・・・そんな顔していると・・・またしちゃいますよ?」 (この子・・・実はSだったのか・・・) 新たな真実を知った楠田さんでした |