全部、君だった
・・・53.私を動かすものはこの想いだけ、もう誰にも止められない





楠田さんはすぐに私の願いを実行してくれた。
本当にあの人は私には勿体ほど有能なマネージャーだと思う。



そして私が今居るのは、新開監督が滞在しているホテルの一室。
楠田さんも一緒に行くと言ってはくれた。だけど、私一人でというのが
監督からのひとつの条件だった。
だからこの静寂の中には私と監督の二人しか存在しない。
テレビも何もついていない静かな中、監督が打つキーボードの音だけが響いた。
そして、なぜこの人は私一人だけの訪問を条件にしたのか、その真意も分からずにいた。
けれど急の申込をしたのはこちらなのだから、いまいち分からない条件を呑んでいくしかない。





「監督。急のお話を聞いていただいて有難うございます。ただ、今日どうして私一人だけを?」



仕事のスケジュール上の問題ならば私よりも、むしろ楠田さんに言うべきだろうし
なによりもおかしいのは監督の醸し出している雰囲気。
こんな監督は初めて見る。仕事のことには鬼だが、一歩離れれば冗談や軽口も言う。
そう・・・・何かがおかしい。そう何かが私に信号を送っている。







「・・・・キョーコちゃんは、この業界に入ってもう結構経つから知ってるよね。
枕営業・・・この言葉も意味も・・・」




この人がこんな事を言うとは思ってはいなかった。
だけど、私の勘は当たっていたらしい。最悪の意味で。
でも、私は決めたの。彼の為にこの仕事を必ず手にすると・・・・。
その為なら・・・・・私を動かすものはこの想いだけ、もう誰にも止められない。






大丈夫。私は女優の京子よ。
今まで何度かベッドシーンをしたことがある。
そう、これは一つのドラマなのだから。そう、自分に必死に言い聞かせて。




「・・・・知っています。意味も言葉も。監督は私と寝たいとおっしゃってるの?」



監督の傍まで近づき妖艶な微笑を浮かべ、まるでこの人を挑発するように
耳元で囁き、今度は甘噛みをする。
その瞬間、監督の腕が私の腕を掴み後ろにあるベッドへと倒される。
その瞳は、いつもの瞳ではなく欲情した一人の男のものに変わっていた。



「君が、こんな積極的に乗ってくれるとは思わなかったな」
「それは・・・・ぁ・・・っんっ・・・っ」


言葉にしようとすると口を塞がれ、両腕は頭の上で固定されてしまう。
やられってぱなしも嫌だと思うのに、抵抗さえできない。
その間に衣服は脱がされて身につけているのショーツだけになっていて。




「かんとくっ・・やぁっ・・・ふぁ・・・んっ」
「ククッ・・・感じてるの?腰動いてるよ?」
「やぁっ・・喋らない・・・でっ・・・」




胸の突起を口に含んだまま喋られ、片方は手で荒く揉まれていく。
激しい愛撫に徐々に理性が無くなっていくのが分かる。
駄目なのに、こんなことがやりたい訳じゃないのに。
頭では分かっているのに、身体は熱にうかされて。






「何を考えてる?随分と余裕なんだな・・・・」






監督の口調がいつの間にか変わっている。この人本気だ。
本気で私を抱こうとしているんだわ。





にやり、口角を上げ笑う監督の指が次の瞬間
ショーツに手を掛け、濡れている秘部を撫でるように触れると
今度は流れる愛液を指ですくいあげてぺろりと舐められ、
それだけの行為で羞恥で顔が熱くなっていく。
その間に、監督は再びそこに指をやると一気に中に入れていった。



「やぁっ!やめぇ・・・っ・・んんっ」


口を空いている手で塞がれ、胸の突起を強く噛んだり舐められたり
強い刺激にイってしまいそうになる。



「イったな・・・・だけどまだまだこれから。」


そう言うと、先程まで入れられた指を抜き、急に腕を掴まれたと思うと
今度は四つん這いの体制にされ――――――――。




「ちょ・・・やめっ・・・ああっん!」





自分の熱を帯びた欲望を勢いよく突き上げられ、
その急な刺激に私は喘ぎ声をあげる。




「いやぁ・・・ああっ・・・ふぁ・・あんっ」
「嫌がる割に・・・クッ・・・身体は喜んでるみたいだが?」



胸を激しく揉まれ、そして腰を掴まれ激しく打ち込まれていく。
この人がこんなに激しいとは思いもしなかった。
それは私の明らかな誤算だった。




「ちがっ・・・はぁっん・・・んぁ・・あっ・・」
「いつまで、そう言ってられるか・・・」




それから、私は何度も何度も抱かれ、イかされてしまい
最中に意識を飛ばしてしまったらしい。
目が覚めると、昨日とはまったく違う普段の監督に戻っていた。











「・・・・まず謝るよキョーコちゃん。君の弱みに付け込んでごめんね。
それと、俺の映画に出てほしい。もちろん、君にはつらいシーンもあるんだけど
あいつと絡むところが多いわけだからね。でも、それを承知で君は俺に頼んできた。
何か心境の変化でもあったのかと思ってね。少し君を試した。本気なのかどうなのか・・・」





監督は、少しだけ話のあらすじと、本当はまだ誰にも告げていない先の事も
話してくれた。そして別れ際、彼は昨日の事を思い出しながらポツリと呟く。






「それなのに・・・冗談のつもりだったのに、本気になっちゃって俺も大人げないな。」







本当に・・・・私も大人げなかったかもしれない。
そして女優としてもまだまだ未熟だったと思い知らされた。
自分から仕掛けておいて、まさか途中から演技なんてさせてもらえなかったのだから。




「あ〜あ、楠田に怒られるなぁ、俺。大事なお姫様に手を出しちゃって」



その表情は、本当に楠田さんに恐怖しているものだった。