彼のあんな姿を見て、私は悔しくて悲しくて、そして自分を憎んだ。 あの人の輝きを失わせてしまったのは私が原因。 それなら、どうすればいい?ううん、答えはとっくに私の中で出ている。 なら、それをすればいいだけのことだ。 例えそれで自分が傷つくことになっても、耐えられない苦しみなんかない、この胸の痛み以外は。 「楠田さん」 この人にまた迷惑をかけてしまうけれど。 「お願いがあるの・・・・違うかな。これはただの我儘なのかもしれない」 どうか許して下さい。 ** キョーコに歩み寄りながら、彼女の様子がいつもと違うことに気がついた。 また、この子は何か抱え込んだのか。俺はそんな風に最初は思っていた。 彼女の真剣な瞳を見るまでは。 「悪い、悪いキョーコちゃん。お兄さん待たせちゃった」 いつもの調子でとりあえず声をかけてみたのに、いつもなら帰ってくる声がない。 おかしい・・・・そして、この場の空気が重い。 俺、この沈黙に長く耐えられそうにないよキョーコ。 そんなふざけたことを思っていれば、彼女が真摯な態度で語りかけてくる。 「楠田さん、お願いがあるの・・・・・違うかな。これはただの我儘なのかもしれない」 何度もいうけど、俺は彼女のマネージャーだ。 彼女の傍に何年もいた。この芸能界にいるのも彼女よりうんと長いし その分、この業界の良いところも悪いところも沢山見てきているわけだし。 だが、これまで彼女が我儘と言える部類のことを俺に言ったことはない。 俺としては、少しくらい我儘な所が彼女にあってもいいと思う。 そう・・・・それぐらい彼女は、キョーコは真面目過ぎるのだ。 「・・・我儘か」 「はい」 さて、このお姫様はどんな事を言ってくれるのか。 俺は、まるで彼女の父親や兄にでもなったかのような気分になっていたわけで。 「この素晴らしくもカッコいいお兄さんがキョーコ姫の我儘を聞いてあげまようじゃないか。 ほれ、言ってみな」 「・・・いいの?」 「良いって言ってるだろうこの俺が」 言ったのはいいが、実のところまだ少し悩んでいるのだろうキョーコはモジモジと 俺の前でしている。その姿がまたなんというか・・・・。 嗚呼、ごめんキョーコ。お前が真剣なのは分かってるんだけど お兄さん我慢できませんでした。 「可愛いぞキョーコ〜〜〜〜」 「えっ、えぇぇ・・・ちょっ・・・楠田さん離してよ〜〜〜!!!」 どうやら、俺は相当彼女にやられているようだ |