全部、君だった
・・・49.その視線に気付いていながら、知らないふりをしました




復帰直後は、どこにいっても同じ事を何度も、何度も聞かれ
そして同じように何度も、何度も答えて。
そんな状況に内心少しばかり疲れたなんて思ったりもしていて・・・・。
だけど、そんな事はけして言える立場でもないし、
それにこれまでのことを考えれば当然な状態な訳で。
だから私はけしてそんな気持ちを表面には出さないように演じる。


私は、もう昔のように何も出来ずに泣いているだけの少女ではないから。
今の私は、そう・・・・「女優 京子」という看板を背負った商品なのだから。







「な〜んて自分に言い聞かせてみる私って・・・・」




寂しい女・・・なんてね。
でも、実際その通りなのだけれど。






「またブツブツ何を呟いちゃってるのかな?この姫さんは。」



もんもんと1人考えていると、どうやら声に出ていたらしく
隣を歩く楠田さんにちゃかされてしまった。


「べ、べつに・・・・。ただ」


そう、ただ・・・・・。


「ん?」
言いかけると今度は、ちゃかした態度なんかじゃない
優しい声と、優しい眼差しで私が話すのを待ってくれた。
「私は女優だから。LMEという看板を背負った女優だから。
だから、その看板を汚さないようにしないといけないなっと
思っただけよ。」
そんな私の言葉に対して楠田さんは、どうにも腑に落ちないような表情を浮かべる。
なんで、そんな表情するの?
私には分からなかった。だって、この人はLMEの社員で
私のマネージャーでしょ。いわば私という商品の担当者じゃないの。


「・・・・なんだその顔は。変だって顔だな。」
「・・・・」



変でしょ。実際。
まぁ、以前からこの人ちょっと変ってるけど。



「失礼だな。人のことを変だなんて。」



え・・・なんで考えてたことばれたのかしら?


「あ、あのな・・・キョーコ。お前、さっきから声に出てるぞ?」


「えっ、えぇ〜〜〜!!」



私の叫ぶ姿に、周りの人たちが一斉にこちらを何事かと見る。
楠田さんは、周りに「すみません。何でもないですから」と謝りながらも
本当に呆れたという感じで額に掌を置く。



だけどそんな姿でも様になっている彼は、本当は彼こそ芸能人になったほうが
いいんじゃないかというほど様になっていて。
実際、この人をさっきからチラチラ見ている女性数人ばかり。



「ふぅ・・・天然もここまで来ると危険だなぁ。キョーコ。
その癖やめなさい。というか、直せ!今すぐ直せ!
んでもって、さっきの話に戻るぞ?あのな、俺は別にそこまで
女優って言葉に拘らなくてもいいと思うぞ?そりゃあ自覚はあったほうがいいけどな。
いいか?「京子」も「キョーコ」もお前なんだ。だから、「京子」をわざわざ
意識して作る必要はない。」



楠田さんの言葉はいつも私を軽くしてくれる。
あなたは、いつも、どんな時でも私を優しく見守ってくれた。




いつだってあなたは私の味方をしてくれた。





それなのに。





その視線に気付いていながら、知らないふりをしていた・・・