全部、君だった
・・・48.答えなんて何処にも無い、あるのはただ




社長室に訪れると、以前とは変わらない、けれど少しだけ疲れた顔をした姿があった。
思えば、私はこの人のおかげでこうしてこの芸能界にいられるというのに
私は何一つ恩返しが出来ていない、ううん、それどころかまた迷惑をかけてしまった.




「お時間をいただき有難うございます社長。」





この人には、どれだけ謝ってもきっと足りない。
それでも、私は謝り続けなくちゃいけない。
そして、その為にこの世界に立ち続けなくてはいけない。







「ずいぶんと長い旅行をしてきたようだね。」






そう、長い・・長い旅のようだった。
あの人の、私の知らない姿が悲しくて。
そして、あの人を傷つけたことに今更気づいて。
自分の心を覆うように広がる闇。
醜い心。後悔と罪悪。
だけど、そんな私を救いあげてくれた尚との生活。





今でも彼を思うと胸を締め付けられる。





ごめんなさい



ごめんなさい






(それでも・・・あなたを思う私を許してほしい)











「おかえり、京子」




社長のその声に、頭を上げると同時に暖かい温もりに抱きしめられる。
そして、背に回された手が、優しく頭を撫でる。



その手があまりに優しくて、涙が溢れ出す。
こんなに迷惑をかけたのに。
本当なら見捨てられても当然なことをしたのに。










「ただいま帰りました。社長。」














また、この世界に戻ってこられた。



だから、私はもう一度女優に戻るの。



最上キョーコから京子になる。











答えなんて何処にも無い、あるのはただ――――――・…