「ありがとう。」 松太郎は、その言葉に少しだけ笑って照れ隠しのように私の頭をもう一度くしゃっと撫でた。 松太郎のことを、一度は憎んで彼への復讐のために入った芸能界。 そんな優柔不断な理由で入った芸能界が私にとってかけがえのない夢を与えてくれた。 私の思っていたよりもずっと・・・自分のことを大切に想ってくれていた。 そして、また彼は私の背中を押してくれる。 「家出娘・・・迎えに来てやったぞ。」 松太郎が押してくれた背中の先には久しぶりに会う楠田さんの姿。 彼の変わらない姿、態度がうれしくて。 「ごめんなさい。」 私はこの人にもたくさん、たくさん迷惑をかけた。それなのに、この人は迎えに来てくれた。 自分は沢山の人に見守られて・・・そしてその人たちを悲しませていた。 そう思うと目の奥が熱く涙がこみあげてくる。 「おい、家出娘。今度やったら俺はもう知らないぞ。 それと・・・・・ごめんなさいじゃなくて、”ただいま”だろう?」 相変わらず意地悪な言い草をする私の尊敬できる相方。 けれど、その言葉の全てに温かさを感じられる。 「た、ただいま・・・・楠田さん。」 「おかえり。キョーコ」 彼は、笑顔を浮かべると私をぎゅっと抱きしめてくれる。 こんな自分勝手な私に、神様はもう一度チャンスを与えてくれた。 だから、このチャンスを、私を支えてくれた人たちの為に生かさなければいけない。 あの光の向こうへ。 「私は女優・・・・」 蓮。 あなたへの想いはけして消えたわけではないけれど、逃げてばかりいたらいけないわよね。 私は、あなたをまた傷付けてしまうのかもしれない。 だけど、私には・・・・あなたや松太郎がくれた女優としての道しかない。 「楠田さん。今から社長に会うことは可能ですか。」 私の声に楠田さんは、わかっていたかのように頷く。 「もちろん。お前がそう言うのは分かっていたからアポとってあるよ。」 「さすが。楠田さんです」 大丈夫。 この想いさえあればこれからも生きていける。 |