仕事から帰ってきた松太郎が、なんだかいつもと様子が違う。 仕事が上手くいかなかったのだろうか? けれど、けして険しい表情を浮かべているわけでもなければ、愚痴ることもない。 そう・・・険しいというより、切なさを浮かべていると言った方がいいのかもしれない。 「ねぇ・・・・どうしたの?」 この3年間で、何回か仕事の事で不機嫌さを露にしていた事は数回あった。 けれど、その時はいつも私に愚痴などをよくこぼしていたものだ。 それを私が松太郎が満足まで聞いている。そんなことはあった。 だけど・・・・今回は違う。 「ねぇ・・・・」 「キョーコ・・・。お前を迎えにもうすぐ楠田のおっさんが来る。」 「な・・・っ」 松太郎の突然のその言葉に私は驚き口を開くが、 その言葉をさえぎるかのように、松太郎が再び話をはじめた。 それはきっと、あの3年前のあの日からこいつが想っていたこと。 「お前は、アイツを想いすぎて、アイツが居る芸能界から姿を消した。 だけど、本当は違う・・・お前は演じたいんだ。あの光を浴びた舞台で。 お前の目を見れば分かるんだよ・・・バーカ。 演じたいくせに、戻りたいくせに・・・・アイツが怖くて逃げだして。 本当は、もっと早くこうすればよかったんだろうけどな。 俺も、お前がアイツの事で悲しんでるの見ているのが嫌だった。 あの日、俺がお前を拾ったことでお前を芸能界から遠ざけちまった・・・・ だから、今度はお前を芸能界へ、お前の舞台に戻してやるよ。」 ねぇ・・・松太郎。 あんた気付いている? あんたの涙なんて・・・・・私、初めてみるかもしれないね。 有難う、松太郎。 私の背中を押してくれて。 私を救ってくれて。 「・・・・・・泣いてるんじゃねーよ。馬鹿キョーコ。」 「あんたに言われたくないわよ。馬鹿松太郎!!」 その意気だぜ、その意気。そう言うと松太郎は私の頭に手を置き クシャっと頭を撫ぜる。その手は、少しだけ震えていたけれど私はそれに気付かないふりをした。 松太郎。 あんたは私の一番ではないけれど、だけど・・・・それでも愛している。 だから 「ありがとう。」 |