全部、君だった
・・・46.あなたは私の一番ではない、だけど愛してる
仕事から帰ってきた松太郎が、なんだかいつもと様子が違う。
仕事が上手くいかなかったのだろうか?
けれど、けして険しい表情を浮かべているわけでもなければ、愚痴ることもない。
そう・・・険しいというより、切なさを浮かべていると言った方がいいのかもしれない。




「ねぇ・・・・どうしたの?」



この3年間で、何回か仕事の事で不機嫌さを露にしていた事は数回あった。
けれど、その時はいつも私に愚痴などをよくこぼしていたものだ。
それを私が松太郎が満足まで聞いている。そんなことはあった。
だけど・・・・今回は違う。





「ねぇ・・・・」





「キョーコ・・・。お前を迎えにもうすぐ楠田のおっさんが来る。」




「な・・・っ」





松太郎の突然のその言葉に私は驚き口を開くが、
その言葉をさえぎるかのように、松太郎が再び話をはじめた。
それはきっと、あの3年前のあの日からこいつが想っていたこと。




「お前は、アイツを想いすぎて、アイツが居る芸能界から姿を消した。
だけど、本当は違う・・・お前は演じたいんだ。あの光を浴びた舞台で。
お前の目を見れば分かるんだよ・・・バーカ。
演じたいくせに、戻りたいくせに・・・・アイツが怖くて逃げだして。
本当は、もっと早くこうすればよかったんだろうけどな。
俺も、お前がアイツの事で悲しんでるの見ているのが嫌だった。
あの日、俺がお前を拾ったことでお前を芸能界から遠ざけちまった・・・・
だから、今度はお前を芸能界へ、お前の舞台に戻してやるよ。」










ねぇ・・・松太郎。



あんた気付いている?




あんたの涙なんて・・・・・私、初めてみるかもしれないね。









有難う、松太郎。





私の背中を押してくれて。







私を救ってくれて。








「・・・・・・泣いてるんじゃねーよ。馬鹿キョーコ。」







「あんたに言われたくないわよ。馬鹿松太郎!!」










その意気だぜ、その意気。そう言うと松太郎は私の頭に手を置き
クシャっと頭を撫ぜる。その手は、少しだけ震えていたけれど私はそれに気付かないふりをした。










松太郎。



あんたは私の一番ではないけれど、だけど・・・・それでも愛している。








だから










「ありがとう。」