全部、君だった
・・・42.噛み締めたのは鉄の味
私は、なんて愚かな、哀れな女なのだろう。
あの日、そう思い知らされた。





あの日、大勢の人が行き交う中で私を見つけてくれたのは
今も心の中に残る彼なんかじゃなく、過去に憎しみを抱いたこともあった
幼馴染の松太郎だった。人だかりの中。自分へと向けられる好奇の眼差しを無視し私のもとへ
必死に走ってくる姿を見つめながら、どうしてあの人じゃないのだろう、私はそんな風に思っていた。



「もう、泣くな・・・・1人で泣くなよな・・・キョーコ。」





そんな私の心なんて知らない松太郎は、優しくそういうと黙って私を抱きしめた。



ねぇ、松太郎。あんたが私を今も好きでいてくれているの知ってるの
だから、あんたのその気持ちに、優しさに甘えてしまう私を許さないで
私はあんたが思っているような女じゃない、自分勝手な女なの




だから、今だって彼には、もう大事な人がいるのに
彼の大事な人を傷つけてしまったのに、どうして、今もまだ彼を忘れられない
求めてしまう自分の愚かさに唇を噛み締める。










噛み締めた味は血の、鉄の味だった