全部、君だった
・・・41.君のためだなんて言わない、だってすべては自分のため
3年前のあの日、俺があいつをみつけたのはまったくの偶然だった。
その日、俺は新曲のPV撮影が終わりようやく東京に戻ってきたところだった。
今にも雨が降りそうな雲行きの中で、俺はいつものように祥子さんの運転する車の助手席から
外を眺めていた。変わり映えのない風景が続くオフィス街を走っていると行き交う多くの人に混じって、
見知った女に似た女を見つけた。
けれど、こんなところにあいつが居るわけがないと、すぐに俺はそう考え直した。
(・・・・・でも、よく似ている)
「・・・・祥子さん。」
一度は見間違いだと思った。だが俺の中でなぜかひっかかる。
そうだ、もしも、もしもあいついだったら見過ごすことは出来ない。
「?」
「悪いけど、ここで降ろしてくれない?」
「えっ、ちょっ・・・尚!!」
祥子さんの呼ぶ声を無視し、俺は来た道を戻っていく。
もしかしたら見間違いかもしれないのに。あいつじゃないのかもしれないのに。
だけど、俺は走り続けた。ひたすらに。周りのざわつきなんか今の俺にはどうでもよかった。
ただ 確かめたかった。
「キョーコっ!!!」
その小さな背中を。
「・・・っ松太郎・・・!」
もし、さっき俺が間違った行動をしていたらこいつは
きっと1人で泣いていたに違いないから。
だから
「もう、泣くな・・・・1人で泣くなよな・・・キョーコ。」
俺がついてる
俺がお前を守るから。