全部、君だった
・・・40.ぐるぐるまわって、そしていつか消えればいいのに
今年も暑い夏がやってきた。けれど、今の俺にはそんなものはどうでもよかった。
なぜなら、俺にはもう、汗水垂らして走らなければならない理由がない。
そう・・・・俺が唯一認めた女、「京子」がいなくなった3年前から。
「あ〜〜〜〜もう!!!楠田さん、いいかげんにしてくださいよ。こっちは忙しいんですから」
俺の隣で生真面目にそうつぶやくのはいよいよ古株の域に入りつつある社君だ。
後輩も続々と増えているというのに、まったくこの男は変わらない。
妙なところで不思議君なところも、仕事にはとことん生真面目なところも。
(・・・・・いや、違うか。俺が変わってしまったのかもしれないな)
「ああ・・・・忙しいんだろう?雑用ぐらいなら置いとけ。それぐらいやってやる」
「ちょっ、違いますってば!!俺が言いたいのは・・・・・」
(分かってるさ。キョーコを探せってことだろう?だが―――)
「――――それは無理だ。だいたいあれから3年だ。俺やお前、ましてやおっさん達まで
探しまわって見つからないんだ。ほっておけばいい。そのうち戻ってくるかもしれないだろう?」
そう言ってはみたが、本当はもうあいつは戻ってこないのではないか、そう思えてならなかった。
周りの人間はキョーコを「女優 京子」としか見てはいない。
だが、マネージャーとして長くそばに居た俺はあいつが本当は、その辺の女の子と変わらないことを
知っている。たわいもないことで悩んだり、単純なことで喜んだり。
ああ、そういえば以前受け持っていた彼女も言っていたな。
”たった一人の大切な人に必要とされたい。その人の為に笑っていたい。
ねぇ・・・そういう風には思えないかしら?楠田さんは。”
「・・・・キョーコ、お前は今笑えているのか?」
あの眩しいほどの輝いた笑顔を浮かべているか?