全部、君だった
・・・34.どうして、君はそうやって
来客だと言われ、通された客室にはまったくもって、予想もつかなかった一人の少女がいた。



「君が、いったい俺にどんな用なんだい。」
突然の彼女の訪問に驚かされはした。けれど、彼女が俺を訪ねてくる理由などひとつしか
思いつかない訳ではない。俺は、彼女の理由をなんとなく分かっていながら
聞こうとしている意地悪な自分にほとほと大人気ないと思いながらそう尋ねてみる。
それにしても、彼女の度胸には恐れ入る。わざわざ今のこの状況化で敵陣といっても過言ではない
この事務所にまでやってくるとは・・・・・。
かわいい顔をしているからといって、甘く見ていると痛い目に合いそうだ。



「・・・・あなたは、本当に意地の悪い人ですね。私がきた理由なんてあなたは
もう分かっているはずです。それでも聞くんですね。」

「クック・・・そういう君もなかなかだ。君の言う意地悪な俺に会うために、
あえてこの事務所に訪ねてくるなんて。」



俺のからかい混じりの一言に彼女の肩がわずかに揺れる。
あいつ・・・蓮と何かあったのだろうか。
俺には、2人の間で何が起こったのか分かる筈もない。
だが、彼女の中で何かを感じて、その勢いだけで来たのだろう事は分かる。
じゃなければ、こんな寒い日に上着を羽織ることもせずに来る訳がない。
まったく、凄い子だ。この子みたいな勇気が・・・あいつにもあれば今、こんなことにはなっていないだろうに。




「・・・楠田さん。京子さんに会わせてもらえませんか。」




「京子に会ってどうする?」



その問いに彼女、綾織奈津子は悲しげな微笑を浮かべる。
その表情が今の彼女の全てをあらわしていた。






「あの人の・・・・京子さんの気持ちを知りたい」