全部、君だった
・・・31.共犯共謀けれど罪はひとりぶん

社に礼を言い、エレベーターで最上階まで上がると
そこには、いつからそこで待っていたのだろうか・・・奈津子の姿があった。
「・・・来てたのか。」
「最近会ってなかったから・・・・それに・・・・」
奈津子が、ここに来た理由など、他には思い浮かばない。
蓮は、奈津子の話を最後まで聞くこともなく、中に入ろうとした・・・・しかし。


「私達も聞きたいことがあるの。敦賀さん、私達もお邪魔してもいいですか?」






突然現れたその声に蓮と奈津子は振り向く。そして、蓮の表情は徐々に青ざめていった。
「不破さん・・・?」
「琴南さん・・・」
青ざめていく蓮に選べる言葉はひとつしかない。蓮は、逃げることは出来ないと分かっているのだろう。
奈津子と、そして奏江、尚を中へと招くのだった。
中に入るものの、誰も口を開くことはない。
しばらく静寂が支配する中、奏江の声がそれを破るように奈津子へと向けられた。



「あなたが綾織さん・・ね?初めまして琴南奏江です。」
「は、はじめまして・・・」

にこりと微笑み、自分の前に手を差し出してきた奏江にホッとしたのか
手を差し出す奈津子。奏江は笑顔を浮かべ手を握り視線を奈津子へ向けたまま
蓮に対し言葉を投げつける。


「奈津子さんをキョ―コみたいにしないであげてくださいね?
そんなことになったら、キョ―コ、自分を責めて・・・・あまりにも可哀相ですから。」


奏江の言っていることが分からない奈津子。
そんな奈津子に、奏江は躊躇いもなく、なおも話しを続けていった。


「どういう意味ですか・・・」
「あら・・綾織さん、あなた敦賀さんに聞いていないの?キョ―コのこと?」
そう告げた奏江の目は氷のように冷たいものへと変わる。
「え・・・・・・・」
「知らないなら教えてあげるわ。きっと敦賀さんはあなたに言わないだろうから。でも・・」
「奈津子、お前も同罪だ。お前の存在もあいつを苦しめていたんだからな。」



突き刺すような言葉の刃。そして、自分達に向けれる怒り、憎しみ。
奈津子を全身に震えが襲う。自分の知らない間に向けられていた憎しみ。
だが、キョ―コを苦しめているつもりなど奈津子にはない。
あるわけがないのだ。奈津子がキョ―コと蓮が付き合っていたことを
知ったのはつい最近のことなのだから。
そして何より奈津子からしてみれば蓮の方が苦しんでいたのだから。


「そんなこと知らないっ!だいたい・・・あの人が蓮を苦しめているんじゃない!!
あなた達に・・・・何が分かるって言うのよっ!!」
奈津子は叫んだ。彼女の中には、突然向けられた怒りや憎しみへの戸惑い
そして、蓮への想いだけが満ちていた。



「そうね・・・私達は全てをしらない。でも、それはあなたも同じでしょう。
キョ―コはね自殺未遂をしたの。・・・・・あなたの大切な人のせいでね」





え――――・・・・。



「・・・・そんな・・・」
「知らなかったなんて言葉許さない。」



(そして・・・私達もまた――――)




奈津子の目尻に涙が溢れ、身体は震えが止まらず今にも崩れ落ちそうな状態。
そんな奈津子を庇う様に蓮は尚の前に立つ。

「やめてくれ不破、奈津子を責めるのはよせ。責めるなら俺を責めればいい。
琴南さんも恨むなら、憎むなら・・・俺にしてくれ。」



一体誰がこんな運命を用意したのだろう。
脳裏に焼き付いた君の姿を、今でも忘れることなど出来なくて。