全部、君だった
・・・30.殺したいくらい嫌いだと思った



゛キョーコはあの人のせいで自殺未遂したの・・・"






琴南奏江の口から語られたその言葉に俺は愕然とさせられた。
そして、とてつもない怒りが込み上げてきた。
"あの男"に



「っゆるせない・・・こんな、こんなことゆるせるかよっ!
こんなっ、なんであいつが苦しまないといけないんだ!
俺は、そんな目に合わせるためにキョ―コを諦めたんじゃない」



(――――俺からあいつを逃したわけじゃないんだ)




そうだ。自分から俺はあいつを突き放した。だが、俺にとってあいつがかけがえのない存在であることに
変わりはなかった。いや・・・むしろその反対だった。
離れた分だけ俺の中であいつは確実に大きな存在になっていた。


「・・・・私もあなたに同感だわ。」
今すぐにでもあの男を殴り殺してやりたい。だが、それより何より、キョ―コの顔を見たかった。
脳裏に過るのは、笑顔を浮かべたキョ―コ。いつも俺の前では笑顔だったあいつ。
その笑顔を奪っていった・・・敦賀蓮が憎くて仕方がない。



「なぁ・・・もうひとつ教えてほしいんだけど。いいか?」


そう言った尚の表情には、喜怒哀楽というものがない
例えるならば―――――――人形のような無表情なもの。
尚のそんな表情を初めて見た祥子は、全身から血の気が引いていくような恐怖を感じていた。
そして、そんな尚の視線を直に受けている奏江もまた、恐ろしく整った笑みを浮かべ口を開く。






「ええ・・・どうぞ。」



「敦賀蓮の居場所を教えてくれ。」












尚の怒りの矛先が自分に向けられているとは知らない蓮は、
これから、何が起ころうとしているかさえ知らず、ただ映画の撮影に励んでいた。
・・・・今だ、キョ―コの事を脳裏に焼き付けたままで。


「蓮。今日はこれで終わりだけど・・・この後どうする?」
自分の出番を無事終わらせた蓮に水分補給のミネラルウォーターを
渡しながらそう言った社の言葉の裏にはキョ―コが入院している病院に行くだろう?
という意味が含まれていた。そのことに気付かない蓮ではない。
けれど、蓮には最初からキョーコの所へ行く気などさらさらなかった。
いや・・・正直に言えば、行きたくないのだ。蓮にしてみれば行かなくてもすむなら行かない
自分のせいであっても、キョ―コのあんな姿を見たくはなかった。
これ以上、あの姿を瞼に焼き付けたくなかったのだ。




「このまま帰りますよ。彼女のところには行きません。」



蓮の言葉に強い意思を感じ取った社は、
何か言いたそうに、それでも、それ以上何も言うことはなかった。
これ以上言っても無駄だと思ったのだろう。
蓮は、これ以上何か言うつもりもないらしい社に内心安堵していたのだった。