「蓮。」
社さんは、これまで一度も見たこともないほど真剣な表情を浮かべていた。 この時俺は、その表情が何を意味しているのかさえ考える事さえしなかった。 そう――――いつものように小言を言われるだけだ、そんな風に考えていたのだ。
しかし、いつまでたっても彼はその続きを語り始めることをしない。 二人の間には気まずい空気だけが存在していた。
「社さ・・・・」 「蓮、今から俺が言うことを黙って聞け。」
沈黙に耐え兼ねた俺の声を遮った彼の声は有無を言わせぬ重たく強い口調だった。 俺は何も言えなかった。いや、彼が言わせてはくれなかったのだ。
「・・・・・・・キョ―コちゃんが」
キョ―コが?
「・・・・・・自殺未遂・・・・した。」
自 未 殺 遂
「蓮。今から何も言わず俺について来るんだ。逃げようとても無駄だ。 俺は、お前を無理やりでもつれていく。」
社さんは、そう言うなり俺の腕をきつく掴んだ。その手はどこか震えていた。
そんな状態でも俺は、まだ事の重大さを理解出来ずにいた。
キョ―コが、彼女が自殺未遂を起こした。彼女がなぜそんなことを・・・・・・。
けれど、俺に分かるはずもなかったんだ。彼女の愛に気付かず、彼女を傷つけて、
それでも自分だけがまるで被害者のように過ごしてきた俺には気付けるわけもなかった。
彼女の孤独に。
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