全部、君だった
・・・25.ぎしぎしと、心が軋むような

尚がキョ―コの休止に不信を抱いていた頃敦賀蓮のマネージャーを務める社もまた驚きを隠せずにいた。
しかし、その驚きは尚とは違うものだったが――――・・・・。



「松島主任・・・今なんて言われました?」
その内容を耳にした社は、それは自分の聞き間違いだと信じたかった。
松島に、悪い冗談だと言ってほしかった。しかし、彼がどれほどそう願おうとそんな言葉が
松島の口から出ることはなかった。いや・・言葉なんて要らないのかもしれない・・・
今、自分が聞いた内容が真実だと松島の表情がすでに物語っていたのだから。



「私も驚いているんだ・・・今朝社長室に呼ばれてな。
私でさえ未だに困惑している。君が信じられないのは無理もないさ。」



松島主任の話しでは、椹主任達も社長室に呼ばれていたそうだ。
今度は何を企んでいるのか・・そんな軽い気持ちで行った自分達を
出迎えたのは見たこともないほど厳しい表情を浮かべた社長だったらしい。



「初めて見たな・・・あの人のあんな厳しい表情。社長の携帯へ直接、楠田君から連絡があったそうだ。
京子は昨日一日オフだったんだよ。そして迎えに行った楠田君が京子の異変に気がついた・・・・。
彼女の周りには睡眠薬がちらばっていたそうだ。あとは・・・君も知っている通り。」



「そ、それで・・・・・キョ―コちゃんは・・・」


自分の声が僅かに震えていることが分かる。
そして自分から聞いているにも関わらず、その答えを聞くことを怖いと感じていることも。
松島主任は小さく首を横に振ると、弱弱しい声で。

「楠田君からはまだ連絡がない。・・・・私達はこれから病院に向かう。
君はどうする・・・・あいつに・・・・蓮に連絡でも取るか?」




松島の言葉に社は目を見開いた。
まさか今のこの状況の中で蓮の名前が出るとは思わなかったのだ。



「なぜ・・・そんなことを?」




蓮とキョ―コちゃんが別れていることを知らない人間はこの事務所では居ない。
ましてや主任であるこの人が知らないはずもない。そもそも、今の蓮を知っているはずだ・・・彼は。




「・・・・社長室で椹さんがね、社長に言ったんだ。『蓮に言わなくてもいいんですか?』とね。
あの人がわざわざこの状況でそう言ったんだ。私も驚いたけどね。
まぁ社長は言う必要はないと言われたが・・・・私も気になってね。」





「・・・・言ってもいいんですか?今のあいつは昔のあいつじゃない。
キョ―コちゃんが・・いえ、京子が愛していた頃のあいつじゃない。」




そうだ。あいつはもう変わってしまった。
数日前のあの日。キョ―コちゃんはどんな思いで蓮とあの子を見つめていたのだろう。
どんな気持ちで「さようなら」と言ったのだろう。そのことを考えるだけで今も胸がしめつけられる。
そして自分を責めたくなるのだ。会わせないほうが良かったのではないかと。




「・・・確かに彼は変わった。だが・・・話してやったほうがいいんじゃないのか。
かっては愛し合っていたんだから。ただ、会う会わないかは別だが。」




「分かりました」









―――――――――――――そして俺は全てを語る。







あいつに。