全部、君だった
・・・22.限りなく彩られた悲劇

普段どれだけふざけた口調をしていても冷静さだけは失わないでいた楠田だったが、
そんな彼でさえ冷静さを失わずには居られない状態が今起こっていた。
自分はただ、いつものように受け持ちの年下の少女を迎えに来たはずだ。そう、いつものように。






それが・・・どうしたことだろうかこの状態は。
その少女はまるで童話の眠り姫のように横たわり自分の声にも反応しない。
そして何より楠田の冷静さを失わせたのはその少女の周りに散乱する錠剤。







「・・・・・睡眠薬か?」







未だ眠り続けている少女が、果たして本当にこの薬を
服用したのかは定かではないが、だがしかし用心にはこしたことはない。
そう・・・これは命にかかわることだ。







「・・・・・頼むから間に合ってくれよっ」





楠田は、徐々に冷静さを取り戻していくと横たわったままの少女を抱き上げ駐車場まで急いだ。
車に乗り込んだ彼は、警察に見つかればスピード違反の切符どころではけして済まされない程の
速さで愛車を走らせながらふと、思いついたように携帯を取り出すとある人物へとかけた。




「仕方がない・・・おっさんに報告しておくか。」
『誰がおっさんなんだ?楠田君。』



どうやらぼやいている間に相手が自分からの電話に出ていたらしい。
楠田は、小さく笑い、そしてふざけた口調をガラリと一変させた。





「・・・・社長、実は―――――。」