全部、君だった
・・・18.君があのひとを好きなように、僕は君が好き

「尚ちゃんっ」


背後から呼び止められ振り返れば、そこにはいつもと変わらない、笑顔を浮かべた美森の姿。
ただその日だけは、その笑顔も瞬く間に沈んでいったが。



「どうしたんだよ?」
俺の問いに、美森は一度周りを見渡してから俺にしか聞こえないように声を小さくし
驚くべき内容を口にした。
「尚ちゃんだから言うんだからね。あのね・・・・・・」










美森とそんな話をしたのが一週間前。
あの時は、あまりの驚くべき内容に正直、口を大にして叫びそうになったもんだ。
『奈津子と・・・その・・敦賀蓮が・・・・・・付き合ってるらしいの。』
奈津子というのは美森と同い年の、まだまだデビューしたばかりの新人だ。
美森とはとても同い年とは思えない大人びた考えをする俺は少し苦手な女である。





「どういうことだ・・・敦賀蓮のやつ。」

脚を机の上に伸ばし、雑誌を広げながら頭の中ではそのことばかりだ。
それが徐々に苛立ちへと変わって俺は気を紛らす為にひろげていた雑誌を床へと投げ飛ばした。


敦賀蓮。
その名前の男を俺はこの業界で1番嫌っている。あいつは俺から幼馴染を奪っていった。
だが、俺はあの男だから諦めたんだ。俺はどこかであの男を認めていたしな。
なのに・・・・。









「キョ-コを裏切ったっていうのかっ!!」








――――そうだ。







キョ-コ・・・・あいつはこのことを知っているのだろうか。
俺は、日本に居ない幼馴染のことを思い出していた。