全部、君だった
・・・15.傷つけて傷ついて覚えていて忘れないで

インターホンの音が室内に響き渡る。
けれど、この部屋の主である蓮は一行に動く様子は無い。
仕方なく、私が玄関まで行き、ロックを解除した。



カチャッと扉が開く音がして、来訪者へと顔を上げて
私はその場に立ち尽くした。







なぜ、今自分の目の前にこの女性がいるのだろう?






楠田さんは話をしてくれるとは言ったが
でも、本人を連れてくるとは言わなかった。



驚きと動揺に立ち尽くしている私を見る楠田さんの顔は
口角が上がる。


私はその表情に全てを悟った。
この人はわざと言わなかったのだと。







「奈津子ちゃん、紹介する。彼女は俺の受け持っている―――――」


「知っています。京子さんですよね。」





彼女を知らないわけが無い。
いや、この日本で知らないものがいるはずがない。





この若くして日本を代表する女優にまでなった
美しき女性を―――――――――――。







「はじめまして綾織さん・・京子です。」





動揺を隠そうと必死な私に、目の前に立つ彼女は
優美なまでの微笑を浮かべ私の前へ手をさし出した。



「は、はじめまして。綾織奈津子です。」





握り返したその手は、とても冷たくて
そのあまりの冷たさに驚いた私を京子さんは、小さく笑った。



「さっきまでドラマのロケだったから・・・驚かせてしまってごめんさいね。」
「い、いえ・・・」



遠慮がちにそう言った姿に気を悪くすることもなく
彼女はまたクスクスと笑い始めた。




しかし、その微笑はすぐに止み、彼女の視線は
私の背後に向けられた。
どうかしたのだろうか、と振り返ろうとすると彼女の唇が
その名を呼んだ。









「久しぶりね・・・・蓮。」









蓮と――――――――――――・・・・