全部、君だった
・・・01.携帯越しのノイズ



俺の腕の中から蝶が逃げ出した。
君は、今、日本に居ない。
手の届かない場所へと飛んでいってしまったから・・・


あの日、俺から別れを告げたのというのに、どうして俺は後悔しているのか。
言った後になって後悔するなんて愚かで、滑稽で。


だから、俺は君を忘れる為に
偽りの言葉を語り、君じゃない女を抱いている。
君を忘れられるはずなどないのに―――――。












2008年 東京。
スーツでピシッと決めた青年が1人携帯を握り
何やら叫んでいる。


「蓮!お前どこにいる!」
『どこって・・・・どこですけど?』
電話口の向こうからは青年とは反対に飄々とした口調で
質問の答えになっていないような返答をよこす。
「1人か?」
『・・・・・』

相手の沈黙で、1人では無い事を知った青年、社倖一は小さく溜息を吐きながら本題を語る。
その彼の腕には丸め込まれた週刊誌が一冊。
「週刊誌と・・それから、そうだなテレビを見ろ。」
『は?週刊誌ですか?そんなの無いですよ。』
「買って来い!とにかく買え!!それが嫌ならテレビを見ろ!」

社の尋常ではない口調に電話の向こうにいる蓮は、自分の隣りで眠る相手を起こさないよう
ベッドから抜け出るとテレビの電源を入れた。


「つけたな?蓮、テレビには何が映っている?」
『・・・俺ですね。』
「そうだ・・・週刊誌にも載っている!敦賀蓮熱愛発覚!ってな!!本気か?面識はあるのか?」
『さぁ?分かりません。』

まるで他人事のように話す蓮に社は声を荒げ何かを言おうとしたその時だった。
社の背後から腕が伸びてきて電話を奪われたのは。
そして、その腕の持ち主である女は告げる。





「敦賀蓮の名前も落ちたものね。」と―――――…