「二度と言わねぇから良く聞けよ」






松太郎とはいつの間にか普通の幼馴染の関係に戻っていた。
時々、お互いの時間が合った時はこうやって会うこともよくあったりする。
まさかこんなに穏やかに松太郎と過ごす事があることが自分でも不思議だったり。


でも、こんな時間も私は好きだったりする。
普通に話して、笑って、そんな些細なことなんだけど私は嬉しい。





そんな時だった、あいつが言ったのは。
最近私もあいつも忙しくて会うことがなくて、よやく落ち着いてきた頃久しぶりに連絡が入った。


「よぉ、久しぶりに飯でも食いに行こうぜ?」
「いいけど・・・・少し遅れるかもしれないわよ」
「そんなこと分かってるって!テレビ見てればな。お前ドラマに出まくりじゃん。
ちょっとウザい・・・」
「はっ!何それ!あんた喧嘩売ってるわけ!!そんなこと言うなら行かないから」


まったく腹の立つ・・・・。会ったら痛い目に合わせてやる・・・。
私の殺気に気づいたらしい。電話口で小さな声で「やっちまった・・・」と呟いたのが聞こえた。
ふふっ。聞こえてるって。テレビではあんなに格好つけてるのに私の前ではこう。
まぁ、今更格好つけられてもって思うのだけど。




「どこに行けばいいの?」
「予約しといたからな。絶対来いよ!絶対!」
「はいはい。で?どこに行けばいいのよ?」
「―――――――――――ホテル。18時に来いよ。」





ホテルで食事?しかも予約?あいつが?
おかしい・・・・何か行事あったかしら?
あいつに誕生日な訳ないし、私もまだだし・・・・・。
そういえば、何か最後すごい真剣な声だった気がした。














5分遅れて、慌てて言われたホテルに行くと松太郎はラウンジの処で
待っていてくれた。その恰好は、いつものラフな格好ではなく・・・・・。





「クスクス・・・似合ってないわね。スーツなんて着て」
「う、うるせぇ・・・!」
「どうしたのよ?そんな恰好して。あんた堅苦しい格好嫌いじゃない。」
「それは・・・・いいっ!あとで分かる!行くぞ、5分遅れちまった!」




松太郎はそう言うと、私の腕を掴んで歩きだす。
私は、よく分からない状況に首を傾げながらついていくだけ。
その間、二人の間で会話もなく松太郎が予約したというホテル内にあるレストランについた。





案内された席は夜景がよく見える場所。
本当にどうしたのだろうか?格好といい、この場所といい。
松太郎らしくないものばかり。
しかも、その本人はさっきから何も話そうともしない。
ハッキリ言って不気味。





「ねぇ・・・松太郎どうしたのよ?」
「おい、こんな場所でまで本名で呼ぶんじゃねぇ。尚って言え。誰に聞かれてるか
分からねぇんだからな。」
「何をいまさら。でも・・・仕方ないから今日は言うこと聞いてあげる。
こんな素敵な場所連れてきてくれたんだから。」



本当に綺麗な夜景。街の明かりがキラキラして見える。
こんな素敵な所だったらもっと良い服選べばよかったわ。



運ばれてきた高級そうなワインを口にしながらそんなこと考えていると
ふと視線を感じて、そちらに向き直す。
見たこともない程の真剣な眼差し。そして、おもむろに私の手に重なるあいつの手。
本当に綺麗な手をしている。それにいまさらだけど、男の人の手だなぁと初めて意識した。



「キョーコ」
「ん?」
「二度と言わねぇから良く聞けよ」













――――――――――――――――おまえのことを愛してる。
























「ふふっ。懐かしいわねぇ」



あれから5年。私の隣りには旦那さまになったあいつと
私達の可愛いお姫様がいる。お姫様はパパが大好きで大人になったら
お嫁さんにしてもらうと、なんとも可愛い事をいってパパをメロメロにしている。


「なにを一人でぶつぶつ言ってるんですかキョーコさん?」
「私にプロポーズしたときの、あなたの真っ赤な顔を思い出したんですよ松太郎さん?」
「そんな昔のこと思い出すんじゃねぇよっ!ばーか!!!」


結婚した今でも私にそういった事を言うのは照れ臭いらしい。
だけど、大丈夫よ?ちゃんと分かってるから。




「私も愛してるから。ね?パパさん」
「・・・・・俺も」



あの頃の私はこんな風になるとは思っていなかった。
だけど、今私はとても幸せです。








二度と言わねぇから良く聞けよ


(拍手SS*尚キョ / スキップ・ビート!)